去る4月11日から5月17日まで、7回に分けて行われたインド下院 (Lok Sabha) 総選挙の結果は5月23日の開票を待って確定するが、最近の出口調査の結果によれば、インド人民党(BJP)が過半数を維持し、2期目のモディ連立政権(NDA, 国民民主同盟)がほぼ確実になった趣である。
インドのマスコミによるとりあえずの選挙結果予想に筆者の(主観的ではあるが)コメントを添えて、皆様にお知らせすることにしたい。
1.出口調査の結果概要
出口調査は多くのマスコミが行ったが、5月20日付有力な全国紙(Times of India)がまとめたところによると、下院545議席(2議席は大統領の選任)のうち選挙の対象となった543議席中、BJPは227~291議席、NDA全体では277~352議席を獲得すると予想されている。したがって、最小限の議席獲得予想277議席に従っても、NDAが政権を継続することはほぼ確実であろう。
これに対し、最大野党の国民会議派(Congress)は、38~87議席と予想されている。最小限予想の38議席だとすると、国民会議派が獲得した過去の最少の議席数44議席を下回る惨敗となる。予想最大数の87議席だとすると、国民会議派率いる統一進歩連合(UPA)が政権を取るためには、現在UPAを構成している諸政党のほか、ほとんどの政党をさらに反NDAで糾合することが必要である。したがって、国民会議派がモディ政権に代わって統一進歩連合(UPA)政権を樹立することには相当の困難がある。
ただし、出口調査は、わが国のそれと違いかなりの幅を生むことが慣例であるため(集計の仕方やインタビューでの虚偽の回答など)、正式の最終発表では上記の予想と異なった結果となる可能性も排除できない。そうなれば、政権の行方も変わってくる可能性があることに注意をしておきたい。
各マスコミの予想は、下記の表のとおりである(5月20日付Times of India 紙より転載)
表については添付のファイルをご覧ください。
2.BJP勝利(予想)の勝因
筆者によればBJP勝利の最大の理由は、NDA政権全体のこれまでのパフォーマンスが評価された結果であろうが、あえて言えば最大の貢献者はモディ首相その人にあると考える。
モディ首相は、インドの政治の安定、経済の成長、各種の法制を含めた古い制度の改革を進めたほか、国際社会においてもインドのプロフィールを大きく引き上げ、大国入りを内外に印象付けた。筆者によれば、「超大国インド」(拙書「最後の超大国インド」―日経BP者発刊―ご参照)への道を順調に進んでいるということである。インド人は、ここ数年大きな自信を抱くようになったが、モディ首相の訴えはその心情にうまく乗ったものといえるのではないか。モディ首相は、国民会議派などからヒンズー至上主義の批判、国民の分断との批判を受け、またイスラム教徒の反発も招いたが、人口の80%を占めるヒンズー教徒の圧倒的な支持を受けたのであろう。
また、一時期、モディ首相やBJPの劣勢が伝えられたが、パキスタンへの強硬姿勢が成功し、形勢を逆転させた。
去る2月14日、パキスタンが今まで以上にパキスタン軍の関与が疑われたやり方でジャンム・カシミール州にテロ攻撃を行ったが、モディ首相は、2月26日にインド空軍機をパキスタン領にまで侵入させる形で送り込み、テロリスト基地を空爆した。パキスタンも応戦したが、モディ政権はこれを撃退した。その強硬姿勢が国民の喝さいを浴びたようである。過去三度の印パ戦争を除いては、インドは反撃してもパキスタン支配のカシミール州に限っていたが、今回はカシミールに接するパキスタン領の爆撃まで行い、パキスタンに対しはっきりとレッドラインを設けたのであった。それまでは、総選挙について国民会議派優勢との予想も散見されたが、この反撃の結果、BJPへの支持が再度増大したとされる。
3.国民会議派の敗因(予想)
他方、国民会議派は、ラフール・ガンディー総裁に加え、かねてから人気があり政治力を祖母のインディラ・ガンディー首相に比されてきた妹のプリアンカ・ヴァドーラ女史を第一線に立たせて戦った。NDAの各種政策、特に農民票を意識した格差拡大問題や高額通貨の使用禁止措置などの「失政」を強調したが、NDA側も農民票を重視した各種の選挙公約を発表して対抗した。
4.主な各党、州ごとの情勢についてのコメント
―最大の州であるウッタル・プラデッシュ州(UP州、議席数80)においては、現在州政権を掌握するBJPが善戦をしたが、これまでお互いに対立していた三つの地域政党が危機感から団結して対抗した。予想では、BJP勝利の予想が多いが、地域政党連合優勢の予想もある。地域政党が団結しない限り、BJPに押される傾向がはっきりした。具体的に言えば、これまでお互いに敵対関係にもあった社会党(SP)と大衆社会党(BSP)が、さらに民族ロークダル(RLD)を誘って三党が選挙協力を行った結果、これら三党が13~45議席を獲得と予想されている。しかし、BJPに勝つことができるかどうか、最終的な票が確定するまではわからない。
なお、国民会議派は、ガンディー兄妹の奮闘にもかかわらず、出口調査予想では、議席数1~2の惨敗である。UP州(ヴァラーナシ)から出馬したモディ首相と同じく同州から出馬したラフール・ガンディー国民会議派総裁は熾烈な選挙運動を行ったが、モディ首相の圧勝といえる。
―モディ首相が州首相を務めていたグジャラート州(GR州)のほか、マディア・プラデッシュ州(MD州)、カルナタカ州(KN州)、ラジャスタン州(RJ州)という大きな州でも、BJPは圧倒的に勝利した。
―南インドのタミルナド州(TM州)は、タミール至上主義的な地域政党の力が極めて強いところであるが、国民会議派が彼らとタイアップしたため、UDAとしては勝利し、BJPないしNDAは負けたことになろう。
―これまでは西ベンガル州(WB州)はママータ・バナジー州首相率いる草の根国民会議派(TMC)、オディッシャ州はナヴィーン・パトナイク州首相率いるビジュ・ジャナータ・ダル(BJD)の独壇場であり、BJPはなかなか入れなかったが、今回はかなりの議席数でこれら両州への浸透に成功した。
しかし、WB州でTMCの牙城を崩すには至らないとの予想であるが、TMC議席数の3分の1から3分の2程度の票を獲得しそうである。
とりあえずは以上ですが、5月23日の開票結果発表後に、分析評価、その後の展望について改めてご報告いたしましょう。
なお、このHP上、また会員にはメールにてご案内いたしましたが、総選挙の結果や今後のインドおよび日印関係の行方などについて、来る7月8日午後に桜田門外の法曹会館にて、日印協会主催でシンポジュームを開催する予定です。別途、参加を募っておりますので、当HPをご覧ください。
(了)
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