平成27年2月
(公財)日印協会理事長 平林 博
元旦に熱海の温泉につかりながら、白昼夢を見た。内外で多端な年になりそうだが、日本が「上質な国」に向けて発進する夢であった。
日はまた昇る
2012年12月の安倍晋三内閣の誕生以来、日本はようやく輝きを取り戻した。長い間、政治と経済の劣化により落日の感も無きにしも非ずであった日本は、また空高く昇り始めたのである。
外交では、首相自身が積極的に打って出る「地球儀を俯瞰する外交」により、日本への理解と共感は増し、日本の国際的地位は、再度上昇しつつある。
中国および韓国とのぎくしゃくは解消されていないが、中国に関しては、昨年11月の北京でのAPEC首脳会議の際に安倍首相と習近平国家主席は、ぎこちないながらも首脳会談をもった。
両首脳の合意により、本年1月の事務レベル協議の結果、平成24年6月に共同作業グループで大筋合意されていた、海空衝突回避連絡メカニズムの早期運用開始が決まった。
韓国は、パク・クネ大統領が相変わらず慰安婦問題を首脳会議開催の前提条件として頑なだが、時が解決するだろう。
対日強硬姿勢は、歴史的な反日感に加え、韓国特有の内政上の要素もある。放っておけばよい。
日本経済については、政府も日銀も、デフレからの脱却につき不退転の決意だ。アベノミクスの二本の矢(日銀による大胆な金融緩和と政府による財政出動)により、円安にも助けられて日本企業は急速に業績を改善しつつあり、賃金引き上げにも波及している。
安倍内閣は、経済団体などに対し、給与の引き上げを強く要請し、経済団体も協力的である。安倍内閣は、連合も顔負け、むしろ連合以上に「働く者の味方」になっている。
失業率が大幅に低下し、新卒も売り手市場だ。
日本経済の勢いを表す株価指数は、ジグザグを繰り返しながらも中長期の傾向線はしっかりと右肩上がりを続けている。
2月19日には、15年ぶりの高値をつけた。
12月の総選挙での圧勝による強くて安定した政権は、「政治の劣化」を食い止めたのみならず、規制緩和など大胆な第三の矢を射るための国民の信任を受けたのであった。
出足を挫かれたひつじ年
新年の出足は、良いものではなかった。
東京市場の大発会は、年末に続く株価下落で始まった。
国際場裏においては、正月明け早々、フランスの首都パリにおいて、風刺週刊誌「Charlie Hebdo」本社に対するイスラム過激分子によるテロ事件で、12人が犠牲になった。
欧州においては、アルカイダやISILなどの国際テログループへの反発に加え、反移民、反イスラムの気運が強まった。
最近では、北欧の優等生デンマークでもイスラム狂信者によるテロがあり、欧州各国に波及している。
わが国についても、ISILの支配地に、危険を承知で自己責任で入りこんだ二人の日本人が人質となり、日本のみならず世界を震撼させた。
1月の安倍首相の中東訪問に合わせるかのように、ISILは、インターネットを通じ日本政府に対し2憶ドルの身代金を要求した。
安倍内閣は人質の解放のために関係国や宗教団体など持てるすべてのチャネルを使ったが、安倍内閣はこの要求に屈することはなかった。
支払っていれば、日本の国威を失墜し、国際的な批判を招き、更には今後日本人人質はかねになるということを示すことによって将来の日本人拉致を奨励する結果になったであろう。
ISILは、結局、日本人人質の湯川遥菜氏を殺した後、もう一人の後藤健二氏はヨルダンにいる女テロリストの死刑囚と交換で釈放すると、インターネットで要求した。
ヨルダン政府は、女死刑囚はISILにとらわれているヨルダン空軍パイロットとの交換でなければならないとしたが、ISILはこれに応えることなく、後藤氏を殺した。
あとでわかったことだが、ヨルダン人パイロットはもっと前に殺されていたようだ。
ヨルダンは報復として、ISILに対し大規模な空爆を行い、さらに、一時空爆をやめていたアラブ首長国も空爆に再参加した。
ISILは、リビアにおいてエジプト人キリスト教徒を殺戮したため、2月にはエジプトやリビアも空爆に踏み切り、対ISILへの有志連合は大きくなった。
ISILへの戦いは、イスラム教徒に対する戦いではなく、国際社会全体による、アラーやモハメッドの名を騙った狂信的な異端グループとの戦いである。
かつて筆者も師事したことのある故サムエル・ハンチントン・ハーバード大学教授の唱えた「文明の衝突」では、決してない。
欧州の経済はデフレの瀬戸際にあったが、1月下旬、欧州中央銀行(ECB)は、漸く待望の量的緩和に踏み切った。
しかし、EUは、相変わらずギリシャによって振り回されている。
1月の総選挙で選ばれたギリシャの新政権は、EUの支援策の抜本的改善を求めてEUと対立している。
ウクライナ問題も、ロシアの武力を背景とした狡猾な内政干渉により、東ウクライナの分離工作が進んでおり、危機に瀕したままである。
需給のアンバランスから発生した原油価格の急落は、資源国の通貨下落や外資の引き上げを通じて、資源国や新興国の経済を脅かしている。
世界経済は、不安定な動きを続けている。
戦後70周年の節目
本年は、戦後70年の節目である。
戦勝国は、戦後体制の正当化をことさら誇示するために祝賀行事を計画中である。
特に中国は、軍事力の強化と周辺国の領土領海の侵犯を行って東アジアの秩序を乱しつつあるにもかかわらず、日本が戦後体制に挑戦しようとしているとのキャンペーンを繰り広げるだろう。
ウクライナ問題での欧米からの制裁と原油価格の下落という二つのパンチを受けたロシアは、中国に接近しつつある。
韓国も、日韓基本条約50周年をポジティブに演出するのではなく、反日的な行事を行って日本に対する「怨」の捌け口にするであろう。
米国では、先の中間選挙で民主党が敗北して上下両院を共和党に握られ、決められない政治が常態化している。対外的には弱腰外交が懸念される。おりからISILやアルカイダのテロ攻勢が進捗中だが、オバマ政権は、イラクやアフガニスタンでの苦い経験のためか、腰が引けている。わが国に関しても、米国のマスコミの一部やオバマ政権内には、中韓の問題をあたかも忘れたかのように「安倍政権の右傾化」などといわれなき批判をする向きがある。
日本のあるべき対応―「上質な国」を目指す
わが国は、どのように対応すべきなのか。
第一に、国を強靭にするとともに、質の高い国家にすることだ。
まずはデフレからの脱却を優先し、経済を成長路線に乗せて経済力を回復させる。
その際、経済の量的拡大のみならず質的な改善にも配慮する。
中間層を大きくし、また弱者にも配慮する。大企業のみならず中小企業も裨益し、都会と地方がともに活性化するバランスある政策を追求すべきである。
デフレ脱却は、日本人の「心のデフレ」、諫言すれば縮み志向からの脱却をも促すであろう。
格差の大きな社会は、「上質な国」にはなりえない。
アベノミクスは、第1及び第2の矢(金融緩和と財政出動)を放ったが、早急に第3の矢を放つべきだ。
デフレ脱却は、第3の矢の強さと速さにかかっている。
懸案であった法人税の引き下げは、他の法人課税の特別措置の廃止などと抱き合わせではあるが、ようやく動き出した。
消費税の10%への引き上げを遅らせたことは、正解だ。
安倍官邸は、財務省や自民党税調の増税派をよくぞ押さえこんだ。
次には、岩盤規制の打破、特にJA全中の特別権限の廃止と一般法人化である。
安倍内閣は、全中や農林族の圧力をはねのけて合意を達成し、今国会中の法改正を閣議決定した。
農業者のための農業を推進し、農業の競争力強化のための第一歩が踏み出されようとしている。
TPP交渉も、漸く妥結への光が見え始めた。
TPPは貿易立国日本にとって大きな便益をもたらすが、その成功のためにも、競争力の強化を目指した農業改革は必須である。
地方の創生や再生は、安倍内閣の重要施策である。
地方特区の早期の実施さらには拡充のために、各種規制の撤廃・緩和や多面的な観光振興施策も必須である。
地方経済の振興と若者の地方回帰のため、政府も地方自治体も知恵を絞り、予算の傾斜配分を行うべきである。
地方の活性化は、日本の国際化のためにもなる。
「上質な国」は、地方の荒廃を放置しては築けない。
第二に、わが国は、国際社会においても「上質な国」となるべきだ。
日本は、先の大戦後の灰燼から立ち上がり、世界においては「不死鳥日本」と思われている。
その後は一貫して平和国家として歩む傍ら、各国への経済技術支援により国造り、人づくりに貢献してきた。
地球規模問題への貢献も大きい。
灰燼から立ち上がった日本、近代文明と伝統を調和させて発展する日本は、途上国にとって国づくりのモデルとなっている。
わが国の優れた工業製品やインフラのみならず、ソフトパワーも世界で大きく評価されている。
クール・ジャパンは世界を席巻している。
科学技術の進展は、毎年のノーベル賞受賞や特許出願数に象徴されている。
ここ数年の観光客の急増とインターネットの発達により、日本や日本人と直接間接に接した外国人が急増し、日本のよいイメージが広がりつつある。
米国の調査機関によると、中国人ですら、2年続きで、一番行きたい外国は日本と答えている由だ。
日本の魅力は多様性に富んで、奥が深いところだ。
伝統文化や歴史的遺産、自然景観などフィジカルな面のほか、日本人の培ってきた資質すなわち正直、誠実、約束と時間の遵守、おもてなしの心、安心安全感などが、多くの外国人にとって新鮮で心地よい驚きとなっている。
多くの外国人が、日本は「上質の国」と評価してくれている。
日本は、国際社会における「上質な国」として、基本的人権や価値感、高い道徳・道義心に立脚し、世界の平和と安定のために積極的に参画し、さらには個々の人間に着目し紛争国や貧しい人々の「人間の安全保障」の向上のために先頭に立つべきだ。
しかし、「上質な国家」はとかく「脆弱な国家」だと誤解されやすい。
悪意のある国家が、わが国の品位と節度のある対応につけ込む可能性がある。
国民の自衛意識の向上と物理的な能力の向上、すなわち自衛力や海上保安能力の強化と法体系の整備が必要である。
来年度予算は、防衛費と海上保安庁経費の増額を予定しているが、抑止力のためには十分ではなく、毎年の強化が必要であろう。
国際場裏での、日本の立場に関する積極的な発信も必要だ。
中国や韓国による日本に対する誹謗中傷のキャンペーンは、大きな予算と国際的なマスコミの利用によって、米国を含む国際社会向けに大々的に行われている。
放置すれば、これまでの「高く評価すべき日本」のイメージが浸食され、「日本は悪者」との歪んだイメージが広まる可能性がある。
わが国は、その為の予算、機構や人の増強を行わなければならない。
日本人個々人も、常に向上心をもって自らを磨きくべきである。
上質な個人が集まらなければ「上質な国」にはなれないからだ。
特に為政者は、過去20年有余続いた「政治の劣化」を克服し、よい政治を日本国民にもたらす必要がある。
キーワードは、二つ。
中国の四書のひとつ「礼記」にいう「修身斉家治国平天下」、および、北宋の忠臣范仲淹が「岳陽楼記」で述べた「先憂後楽」である。
(公財)日印協会理事長 平林 博
元旦に熱海の温泉につかりながら、白昼夢を見た。内外で多端な年になりそうだが、日本が「上質な国」に向けて発進する夢であった。
日はまた昇る
2012年12月の安倍晋三内閣の誕生以来、日本はようやく輝きを取り戻した。長い間、政治と経済の劣化により落日の感も無きにしも非ずであった日本は、また空高く昇り始めたのである。
外交では、首相自身が積極的に打って出る「地球儀を俯瞰する外交」により、日本への理解と共感は増し、日本の国際的地位は、再度上昇しつつある。
中国および韓国とのぎくしゃくは解消されていないが、中国に関しては、昨年11月の北京でのAPEC首脳会議の際に安倍首相と習近平国家主席は、ぎこちないながらも首脳会談をもった。
両首脳の合意により、本年1月の事務レベル協議の結果、平成24年6月に共同作業グループで大筋合意されていた、海空衝突回避連絡メカニズムの早期運用開始が決まった。
韓国は、パク・クネ大統領が相変わらず慰安婦問題を首脳会議開催の前提条件として頑なだが、時が解決するだろう。
対日強硬姿勢は、歴史的な反日感に加え、韓国特有の内政上の要素もある。放っておけばよい。
日本経済については、政府も日銀も、デフレからの脱却につき不退転の決意だ。アベノミクスの二本の矢(日銀による大胆な金融緩和と政府による財政出動)により、円安にも助けられて日本企業は急速に業績を改善しつつあり、賃金引き上げにも波及している。
安倍内閣は、経済団体などに対し、給与の引き上げを強く要請し、経済団体も協力的である。安倍内閣は、連合も顔負け、むしろ連合以上に「働く者の味方」になっている。
失業率が大幅に低下し、新卒も売り手市場だ。
日本経済の勢いを表す株価指数は、ジグザグを繰り返しながらも中長期の傾向線はしっかりと右肩上がりを続けている。
2月19日には、15年ぶりの高値をつけた。
12月の総選挙での圧勝による強くて安定した政権は、「政治の劣化」を食い止めたのみならず、規制緩和など大胆な第三の矢を射るための国民の信任を受けたのであった。
出足を挫かれたひつじ年
新年の出足は、良いものではなかった。
東京市場の大発会は、年末に続く株価下落で始まった。
国際場裏においては、正月明け早々、フランスの首都パリにおいて、風刺週刊誌「Charlie Hebdo」本社に対するイスラム過激分子によるテロ事件で、12人が犠牲になった。
欧州においては、アルカイダやISILなどの国際テログループへの反発に加え、反移民、反イスラムの気運が強まった。
最近では、北欧の優等生デンマークでもイスラム狂信者によるテロがあり、欧州各国に波及している。
わが国についても、ISILの支配地に、危険を承知で自己責任で入りこんだ二人の日本人が人質となり、日本のみならず世界を震撼させた。
1月の安倍首相の中東訪問に合わせるかのように、ISILは、インターネットを通じ日本政府に対し2憶ドルの身代金を要求した。
安倍内閣は人質の解放のために関係国や宗教団体など持てるすべてのチャネルを使ったが、安倍内閣はこの要求に屈することはなかった。
支払っていれば、日本の国威を失墜し、国際的な批判を招き、更には今後日本人人質はかねになるということを示すことによって将来の日本人拉致を奨励する結果になったであろう。
ISILは、結局、日本人人質の湯川遥菜氏を殺した後、もう一人の後藤健二氏はヨルダンにいる女テロリストの死刑囚と交換で釈放すると、インターネットで要求した。
ヨルダン政府は、女死刑囚はISILにとらわれているヨルダン空軍パイロットとの交換でなければならないとしたが、ISILはこれに応えることなく、後藤氏を殺した。
あとでわかったことだが、ヨルダン人パイロットはもっと前に殺されていたようだ。
ヨルダンは報復として、ISILに対し大規模な空爆を行い、さらに、一時空爆をやめていたアラブ首長国も空爆に再参加した。
ISILは、リビアにおいてエジプト人キリスト教徒を殺戮したため、2月にはエジプトやリビアも空爆に踏み切り、対ISILへの有志連合は大きくなった。
ISILへの戦いは、イスラム教徒に対する戦いではなく、国際社会全体による、アラーやモハメッドの名を騙った狂信的な異端グループとの戦いである。
かつて筆者も師事したことのある故サムエル・ハンチントン・ハーバード大学教授の唱えた「文明の衝突」では、決してない。
欧州の経済はデフレの瀬戸際にあったが、1月下旬、欧州中央銀行(ECB)は、漸く待望の量的緩和に踏み切った。
しかし、EUは、相変わらずギリシャによって振り回されている。
1月の総選挙で選ばれたギリシャの新政権は、EUの支援策の抜本的改善を求めてEUと対立している。
ウクライナ問題も、ロシアの武力を背景とした狡猾な内政干渉により、東ウクライナの分離工作が進んでおり、危機に瀕したままである。
需給のアンバランスから発生した原油価格の急落は、資源国の通貨下落や外資の引き上げを通じて、資源国や新興国の経済を脅かしている。
世界経済は、不安定な動きを続けている。
戦後70周年の節目
本年は、戦後70年の節目である。
戦勝国は、戦後体制の正当化をことさら誇示するために祝賀行事を計画中である。
特に中国は、軍事力の強化と周辺国の領土領海の侵犯を行って東アジアの秩序を乱しつつあるにもかかわらず、日本が戦後体制に挑戦しようとしているとのキャンペーンを繰り広げるだろう。
ウクライナ問題での欧米からの制裁と原油価格の下落という二つのパンチを受けたロシアは、中国に接近しつつある。
韓国も、日韓基本条約50周年をポジティブに演出するのではなく、反日的な行事を行って日本に対する「怨」の捌け口にするであろう。
米国では、先の中間選挙で民主党が敗北して上下両院を共和党に握られ、決められない政治が常態化している。対外的には弱腰外交が懸念される。おりからISILやアルカイダのテロ攻勢が進捗中だが、オバマ政権は、イラクやアフガニスタンでの苦い経験のためか、腰が引けている。わが国に関しても、米国のマスコミの一部やオバマ政権内には、中韓の問題をあたかも忘れたかのように「安倍政権の右傾化」などといわれなき批判をする向きがある。
日本のあるべき対応―「上質な国」を目指す
わが国は、どのように対応すべきなのか。
第一に、国を強靭にするとともに、質の高い国家にすることだ。
まずはデフレからの脱却を優先し、経済を成長路線に乗せて経済力を回復させる。
その際、経済の量的拡大のみならず質的な改善にも配慮する。
中間層を大きくし、また弱者にも配慮する。大企業のみならず中小企業も裨益し、都会と地方がともに活性化するバランスある政策を追求すべきである。
デフレ脱却は、日本人の「心のデフレ」、諫言すれば縮み志向からの脱却をも促すであろう。
格差の大きな社会は、「上質な国」にはなりえない。
アベノミクスは、第1及び第2の矢(金融緩和と財政出動)を放ったが、早急に第3の矢を放つべきだ。
デフレ脱却は、第3の矢の強さと速さにかかっている。
懸案であった法人税の引き下げは、他の法人課税の特別措置の廃止などと抱き合わせではあるが、ようやく動き出した。
消費税の10%への引き上げを遅らせたことは、正解だ。
安倍官邸は、財務省や自民党税調の増税派をよくぞ押さえこんだ。
次には、岩盤規制の打破、特にJA全中の特別権限の廃止と一般法人化である。
安倍内閣は、全中や農林族の圧力をはねのけて合意を達成し、今国会中の法改正を閣議決定した。
農業者のための農業を推進し、農業の競争力強化のための第一歩が踏み出されようとしている。
TPP交渉も、漸く妥結への光が見え始めた。
TPPは貿易立国日本にとって大きな便益をもたらすが、その成功のためにも、競争力の強化を目指した農業改革は必須である。
地方の創生や再生は、安倍内閣の重要施策である。
地方特区の早期の実施さらには拡充のために、各種規制の撤廃・緩和や多面的な観光振興施策も必須である。
地方経済の振興と若者の地方回帰のため、政府も地方自治体も知恵を絞り、予算の傾斜配分を行うべきである。
地方の活性化は、日本の国際化のためにもなる。
「上質な国」は、地方の荒廃を放置しては築けない。
第二に、わが国は、国際社会においても「上質な国」となるべきだ。
日本は、先の大戦後の灰燼から立ち上がり、世界においては「不死鳥日本」と思われている。
その後は一貫して平和国家として歩む傍ら、各国への経済技術支援により国造り、人づくりに貢献してきた。
地球規模問題への貢献も大きい。
灰燼から立ち上がった日本、近代文明と伝統を調和させて発展する日本は、途上国にとって国づくりのモデルとなっている。
わが国の優れた工業製品やインフラのみならず、ソフトパワーも世界で大きく評価されている。
クール・ジャパンは世界を席巻している。
科学技術の進展は、毎年のノーベル賞受賞や特許出願数に象徴されている。
ここ数年の観光客の急増とインターネットの発達により、日本や日本人と直接間接に接した外国人が急増し、日本のよいイメージが広がりつつある。
米国の調査機関によると、中国人ですら、2年続きで、一番行きたい外国は日本と答えている由だ。
日本の魅力は多様性に富んで、奥が深いところだ。
伝統文化や歴史的遺産、自然景観などフィジカルな面のほか、日本人の培ってきた資質すなわち正直、誠実、約束と時間の遵守、おもてなしの心、安心安全感などが、多くの外国人にとって新鮮で心地よい驚きとなっている。
多くの外国人が、日本は「上質の国」と評価してくれている。
日本は、国際社会における「上質な国」として、基本的人権や価値感、高い道徳・道義心に立脚し、世界の平和と安定のために積極的に参画し、さらには個々の人間に着目し紛争国や貧しい人々の「人間の安全保障」の向上のために先頭に立つべきだ。
しかし、「上質な国家」はとかく「脆弱な国家」だと誤解されやすい。
悪意のある国家が、わが国の品位と節度のある対応につけ込む可能性がある。
国民の自衛意識の向上と物理的な能力の向上、すなわち自衛力や海上保安能力の強化と法体系の整備が必要である。
来年度予算は、防衛費と海上保安庁経費の増額を予定しているが、抑止力のためには十分ではなく、毎年の強化が必要であろう。
国際場裏での、日本の立場に関する積極的な発信も必要だ。
中国や韓国による日本に対する誹謗中傷のキャンペーンは、大きな予算と国際的なマスコミの利用によって、米国を含む国際社会向けに大々的に行われている。
放置すれば、これまでの「高く評価すべき日本」のイメージが浸食され、「日本は悪者」との歪んだイメージが広まる可能性がある。
わが国は、その為の予算、機構や人の増強を行わなければならない。
日本人個々人も、常に向上心をもって自らを磨きくべきである。
上質な個人が集まらなければ「上質な国」にはなれないからだ。
特に為政者は、過去20年有余続いた「政治の劣化」を克服し、よい政治を日本国民にもたらす必要がある。
キーワードは、二つ。
中国の四書のひとつ「礼記」にいう「修身斉家治国平天下」、および、北宋の忠臣范仲淹が「岳陽楼記」で述べた「先憂後楽」である。